zakka story vol.7
the view
家、正確に言うとアパートメント(日本でいうとマンションという表現になるのかもしれません)を選ぶ時の基準は、人によっていろいろ。ロケーション(安全か、交通の便はいいか、お店が近くにあるか、周りに自然があるか……)、広さ、間取り、築年数(アメリカの場合、これはあまり問題にしないことが多いです、どれもそれなりに古かったりするので)、設備(アメリカの場合、ランドリーが中にあるかどうかが特に重要)、階数、窓からの景色、同じアパートメントメントの住人たちの雰囲気……。私の場合、もちろん、どれもいいに越したことはありませんが、優先順位をつけるとするならば、1安全か、2同じアパートメントの住人の雰囲気はいいか、そして3番目は、窓からの景色が気に入るか、です。

私が今住んでいるアパートメントの8階の窓から見えるのは、サンフランシスコの街のビルが重なる風景です。ノブヒルからマリーナのほうに向かって上り坂に連なる美しい建物、右には、トランスアメリカの“尖りビル”を含むファイナンシャル・ディストリクトが広がり、左には西へ西へと延々とストリートが続いていくのが見渡せます。特に夜はすばらしく、窓の灯りが、まるで計算し尽くされたかのように、リズムを奏でます。そこに教会の先っぽのユニークなデザインがあったり、ビルの上に小さな塔があってそのてっぺんに星条旗が風になびいている様子が見えたり……有名なグラフィックデザイナーがアートディレクションしたのだと言われれば信じてしまうほど、本当にすばらしい出来映えなのです。窓からの景色は、言ってみれば、部屋に飾るアートのようなもの。確実に空間の一部です。さらに言うならば、何か、住む人の心に与える影響がものすごく大きい、とても重要な要素に思えてなりません。この窓の景色から受けるエネルギーは、毎日の食事のように、住む人の心の栄養となっているような気がするのです。

私のアパートメントの話はさておき、下の写真は、友人のイギリス人、フォトグラファーのLさんのアパートメントのリビングです。
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彼女は、パートナーで家具デザイナーのG氏と一緒にロンドンからサンフランシスコに引っ越して来て4年、始めからずっと今のアパートメントに住んでいます。この住まいが気に入っている最大の理由は“窓からの景色”だと、いつも言っています。初めて彼女のアパートメントに遊びに行った時に、これは今まで見た中でのベストオブビューと言えるかもしれない!と、かなり感動したのを覚えています。1930年代に建てられた古いヨーロピアンスタイルのアパートメントの6階。細かく窓が配された円形に近い間取りのリビングから見えるのは、目の前の公園の緑と、遠くに広がる家やビルが美しく連なる様子、そして、大きな水色の広い、広い空。
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この空にいまにも飛び立ちそうな“神様”が窓辺にちょこんと置いてありました。友人からのブラジル土産(リオデジャネイロのコルコバードの丘にある、巨大なキリスト像)とかで、「ジャンクなものよ」とのことですが、マットな樹脂の質感がなんともお洒落で、この黄色い色もまるで太陽と呼応しているかのようです。
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それから、部屋には、鳥のオブジェがたくさんあります。もともと、鳥のモチーフがお気に入り、とのことですが、おそらく、この窓の景色に無意識に影響を受けているのではないでしょうか?この、扉に貼付けたスワローズ柄のファブリックも、もう、何年も愛用しているそうですが、今の場所が一番ふさわしいような気がすると話しています。

窓からのビューの種類は、人によって、好みが分かれるような気もしています。私の好きなビューはこのような街の風景ですが、海や山、そして緑、自然を感じられるかどうかが重要だという感覚もあると思います。2階だけれども、前の建物のデザインがすてきで気に入っているというビューもあるでしょう。いずれにしても、グラフィックデザイン的に美しいかどうか、そして気持ちがいいと感じられるかどうか、がポイントのような気がします。そして、その景色が人の心に与える影響は、とてもとても大きいような気がしてなりません。